マネージャーの井上です。
先先週と先週3日間にわたって、東京都の障害者虐待防止法の研修に参加してきました。
当社は障害者の方の支援はそれほど多くありませし、軽度の方が多いのですが、虐待の案件が幼児・障害者共に増えている時勢なので、しっかりと研修の内容を確認したいというのもあって、参加をしてきました。
参加者は多く、障害者のかたの支援形態は、私達、訪問介護のほかにも、就労支援や相談センターなど、本当にたくさんの人がかかわっているのを改めて実感しました。参考になる資料が沢山あり、なおかつグループワークもあったりして、なんだか緊張する研修でもありました。
◆障害者虐待防止法の成立
実は障害者虐待防止法は比較的最近できた法律です。それまでの虐待関連法は、
平成12年の児童虐待防止法
平成13年のDV防止法
平成17年の高齢者虐待防止法
それからやっと、
平成23年に「障害者虐待防止法」が成立します。
ここ最近ニュースでも頻繁に騒がれているので、やっとといった感じでしょうか。それだけ障害者に対しての施策が遅れていたということですね。さて、障害者の虐待について、今は児童虐待も含め私達一般市民も通報義務があります。では最近ではどれくらいの通報がされているでしょうか。
東京都の平成28年度の通報・相談件数をみてみましょう。
〇養護者によるもの 308件(全国 4.606件)全国のおよそ6% (前年291件)
〇施設従業者 〃 170件(全国 2.115件)全国のおよそ8% (前年221件)
〇使用者 〃 51件(全国 745件)全国のおよそ6% (前年 50件)
(参考 公益財団法人 東京都福祉保健財団 )
しかしながら、この虐待防止法が施行された後も、虐待案件が後を絶ちません。骨折、打撲、ついには死亡に至る凶悪な案件もあります。そして、管理者が施設ぐるみでの隠蔽や虚偽の報告をしていることも大きな問題です。管理者や経営者が虐待自体が事業運営にとって大きなリスクであることの認識が希薄なのです。
講師の先生がおっしゃっていたことが印象的です。
障害者虐待防止法は、虐待をした人を罰するだけの法律ではない。それは、虐待された人同様に、虐待をしてしまった人をも、救う法律である事
◆虐待の3つの問題
さて、虐待はなぜおこるのでしょうか。それには3つの要因があります。
・意識の問題
小さな出来ごとから、心身に傷を負わせる行為にまで次第にエスカレートする。こんな小さなことという意識が、これくらいなら、これくらいならと次第に激しくなっていく
・環境の問題
虐待は個室や深夜など人のいない密室の環境下で行われる
・専門性の問題
職員に行動障害等に対する専門的な知識や技術がないがゆえに、対応が押さえつけやきつい声掛けになってしまう
さて、つぎの事例は虐待にあたるでしょうか??
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Aさんがなかなか椅子に座ろうとしないので、両肩を上から押さえつけるように座らせました。そのあとも立ち上がろうとする度に座らせるようにしました。
親と子供の関係ならあるかもしれませんね。いつもやっているわよという人もいるかもしれませんが、これは虐待行為にあたります。身体拘束や心理的虐待にあたります。小さな事と思われる事も実は人権侵害になっているのです。小さなことが許される、誰にも何も言われないとうことが一番の見逃されポイントです。
虐待をしたスタッフの話が記載されていました、こちらもとても興味深く感じた話です。
・余裕がない中で「いうことを聞いてもらいたい」と思った
・職場全体でダメという雰囲気がなかった、先輩も同じ支援をしていた
・はじめはだめなことだと思っていたが、次第に疑問を感じなくなった。相談できる相手がいなかった、相談しても無駄だと思った
何とも悲しい話です。
虐待をしたこと自体はダメな行為ではありますが、周りのスタッフに相談できないこのスタッフの職場環境がとても気の毒です。ですから、いかに大勢の人で関わり合うか、相談し合える職場環境であるかが大事になってきます。せめてグチを言い合えるような環境であったなら、違う結果であったに違いないと思います。
アンガーコントロール
さて、次は自分自身のコントロールについて。
アンガーコントロールというのを皆さんはご存知でしょうか?1970年代にアメリカで始まった、怒りをマネンジメントする心理トレーニングです。マネンジメントなので、「怒らなくなる事」ではなく「怒りの感情とうまく付き合う方法」を学びます。
では一体「怒り」とは何でしょうか?感情表現の一つでもあり、何かを伝えるための手段としていますが、残念なことに相手にとっては、伝わったことがすべてです。まずは他者を変えるよりも自分が自ら変わる事が大事なのです。よく言われる事ですが、変えられないのは「過去」と「他人」だそう・・・
心の耐性についてはよくコップであらわされます。
コップの中には日々沢山の思いが詰まっています。
不安・つらい・悲しい・痛い・嫌だ・疲れた・寂しい・ストレス・・・等。
このコップのサイズを大きくすると、怒りにくく、怒られ強くなります。コップのサイズが小さければ、当然のごとくすぐに怒ってしまったり、怒られ弱くなります。
このコップの容量を大きくし、沢山入るように、思いをうまく言葉ではき出したり、楽しいことではき出せるにすることが、よい状態を保つ秘訣だそうです。
皆さんの周りにはこんな人はいませんか?立場や役職によって怒り方が違う人。
怒りは強い相手より弱い人相手へと流れていきます。ですから小さい子供や誰かがいないと生活できないような人、女性等弱い立場の人に向かいやすくなります。それは怖いことに「自分でコントロールできる」と勘違いしてしまうから。気を付けなければならないポイントですね。
アンガーコントロールの暗号も覚えておきましょう。
6秒頭の中で数を数える
当事者の意見を聴く
今回とても印象的だったのは、障害のある方自身が障害者対応についてのエピソードを話してくださった事です。
普段聞けない事やこうしてほしいという要望等を聴かせてくださいました。車椅子ユーザーの人・視覚障害の人・知的障害の人・聴覚障害の方が普段感じていることは、健常者の人にとっては無意識でもあり、無知がゆえに行ってしまう事が沢山ありました。
~視覚障害のある方のお話から~
電車内でよく「席が空いてますよ」と言われます。でも、私にとってはいったいどこが空いているのか見当がつかないのです。多分私に言ってくれているのだとはわかるのです。でも、空いている場所が分からないので、親切にしていただいたのに、聞こえていないふりをしてしまうことがあります。
でも、先日私にとって特別にうれしい対応をしていただきました。それは「席が空いていますよ、私が誘導しますからどうぞ座ってください」と席まで誘導してくださいました。そして、最後にとっておきの一言を言って下さいました「降り口はあなたからみて斜め左側にとびらがあります」
なるほど、そこまでサポートすれば安心して座ることができるんだ、と私自身もとても感心してしまいました。
言葉で伝えるのが難しければ、誘導すればよいのです。ただし、急に腕を引いたら驚いてします。では一体なんという声かけがいいのかとご本人に質問が飛びました。ズバリ、「白杖を持った方」でよいそうです。名前も知らない人なので、「あなた」ではだれかわからない、一番わかりやすい方法で呼ぶことがいいそうです。
虐待をなくすためにできること
今回の研修を受けてみて私なりの感想を述べてみたいと思います。
まずは虐待は小さいことから始まるので早期発見が大事である事。施設での虐待が多いのは、やはりスタッフの人員がとても足りていない現状が問題だと思います。行動障害がある利用者の場合はどうしても自分(スタッフ)の気持ちを抑えられないこともあるかと思います。それを一人、二人のスタッフにまかせるのではなく交代でケアできる環境が望ましいのだと思います。
でも実際問題、ケアスタッフがたりないのは、高齢者介護も一緒です。どれだけアンガーコントロールをしても、人間なので体調や気分によりコップの大きさが限界を超えてしまうときもあります。むしろ、コップの大きさよりもコップの数を増やしていくような人員整備が早急に必要だと思うのです。そして、ケアするスタッフの心のケアも必要です、専門のカウンセラーを派遣したり、悩みを聴くケアスタッフ専用のカウンセラーも必要かもしれません。研修を何度繰り返しても、虐待がなくならないのはケアをするスタッフへのケアが不十分なのかもしれません。いいケアを目指すことはいい環境で働けることが必要です。管理者はそれを念頭に置かなければならない時代になってきたのだと思います。